昨今、日本人女性の社会進出、晩婚化に伴い、不妊治療を受ける方、高年妊娠の方は増加傾向にあります。それと同時に、出生前診断を希望する方は増加傾向にあります。出生前診断については、検査の手法・精度・限界、対象となる疾患の特徴などについてあらかじめ十分に理解するとともに、もし検査で陽性と判定された場合、妊娠を継続するのかしないのかを含め家族で十分に話し合い、共通の理解を持つ必要があると思います。
私としては、これから親になる皆様が、「生まれてくる赤ちゃんに病気があった時にどうしよう?」という漠然とした不安ではなく、遺伝学に関する知識を深め、正しく理解したうえで、出生前診断を受ける、あるいは受けないかを自己決定できるようなサポートをしたいと思い、日々NIPTの相談を真摯にお受けしています。
その上で、先日配信された、ある芸能人による出生前診断 (NIPT)のyou tube動画について思うことがあり、解説と私見を述べたいと思います。
NIPTとは、母体血液中に存在する胎児と胎盤由来のDNAを用いて、胎児に染色体異常がないかどうかを判定する検査です。
1回目の検査では「判定保留」とのことでした。この場合、検査実施週数が早く、胎児由来のDNAが必要十分量得られずに正しく判定できなかったか、解析に際し何らかの技術的な問題が生じたためと考えられます。判定保留が生じる確率は0.3%前後と言われております。
判定保留の場合は、少し時間をおいてDNA量が増えてからNIPTを再度実施することが通例であり、この方も再検査を受けられました。その結果陽性 (18トリソミー)と判定されたとのことでした。
その後に確定診断のための羊水検査を受け、その検査では陰性で、胎児に染色体異常が検出されなかったとのことでした。
恐らく、18番染色体のトリソミーが胎盤のみに存在し (胎盤限局性モザイク)、NIPTでは18トリソミーの可能性ありとして陽性と判定されたものの、羊水検査では胎児からはトリソミー細胞が検出されなかった (偽陽性であった)ということです。結果として、胎児には染色体異常がなく、現在も妊娠継続中と思われます。
NIPTを受けたこと、陽性だったことについて涙を流しながら公表したこと、その後の羊水検査が陰性であったことを、後日談として別々に動画配信をしていることも含めて、私は違和感を覚えました。
NIPTを受けて陽性と判定され、羊水検査で染色体異常が確定し、妊娠継続を断念した方もいらっしゃれば、今現在染色体異常のお子さんの子育てに日々向き合って生活されている方もいらっしゃいます。そのような方々に対する配慮に欠ける配信内容ではないかと思います。
また、出生前診断を受けたことを、妊娠中に公表・配信する必要があるのでしょうか?
検査結果の解釈、疾患の特徴などについて、全体を通じて理解が不十分な印象であり、これから出生前診断を受けるか悩んでいる方に対し、不安と混乱を招くような配信内容に感じられました。
出生前診断をお考えの方には、正しく理解し、納得の上、受けるか受けないかを決めていただきたいと強く願います。
当院では出生前診断の経験豊富な臨床遺伝専門医の私が、丁寧なカウンセリングを行っております。詳細はこちらをご参照ください。
また、当院でのNIPTの取組として、こちらのインタビュー記事もご参照ください。