漢方とは
漢方は中国を起源としていますが、日本で1400年以上かけて発展した日本独自の伝統医学です。漢方薬は薬効のある植物・鉱物などを組み合わせた薬です。特定の症状に対してだけでなく、体質など身体全体のバランスを考慮して処方されることから、複数の症状に1剤で対応できることが多く、未病とされる不調やお悩みの改善にも効果が期待できます。
漢方薬は風邪、アレルギー性鼻炎・花粉症・気管支喘息といったアレルギー疾患で処方されることが多いですが、様々な症状に対しても効果が期待できます。
当院では、主に女性特有の病気や症状、不調などに対する漢方薬処方を行っています。それ以外にも、がん薬物療法の副作用やコロナ後遺症、不眠症などのあらゆる病態に対しても漢方薬を用いて積極的にアプローチしております。
特に、現代の医学では診断・治療法がない場合に、漢方薬を用いることで改善できる可能性があります。
西洋薬と漢方薬の特徴とその違い
西洋薬 | 漢方薬 | |
---|---|---|
成分 | (原則として)単一成分 | 多成分 |
作用機序 | 明確 | 明らかではない |
用法用量 | (原則として)決まりがある | 決まりがない (自身で調節可) |
治療効果 |
予測しやすい |
予測しにくい |
薬価 | 比較的高額 | 比較的安価 |
副作用・禁忌事項 | 一定数存在する | (ごく一部を除き)少ない |
なお、漢方治療に関する学会・論文発表、講演会などを積極的に行っています。
婦人科系疾患に
漢方薬は有効です
漢方薬は、月経前症候群・月経困難症・更年期障害、便秘・冷え症・貧血・むくみ・めまい・つわり・不妊症などの婦人科系疾患にも有効とされています。当院ではこうした女性特有の疾患やお悩みに対して漢方薬による治療も行っています。もちろん西洋薬との併用が可能であり、上手に組み合わせることで不快な症状の改善につなげています。
当院で特に処方されることの多い漢方薬は下記の通りです。
当帰芍薬散
冷房が苦手で冷えやすい、体温が低く顔色が悪い、舌に歯痕という歯型があるなど、虚弱で冷え・むくみを伴う方に処方されます。
対象となる病気や不調は月経困難症、月経不順、更年期症候群、貧血、手足の冷え、むくみ、めまい・立ちくらみ、耳鳴、頭痛などです。
加味逍遥散
やや虚弱から体力中等度の方に処方されます。対象となる病気や症状は、更年期障害によるホットフラッシュ・動悸・発汗、月経前症候群、月経困難症、月経不順、不眠などです。抑うつなどがある場合に有効とされ、不安感や焦燥感、睡眠障害などを伴う場合や、多岐に渡る症状があって変動する場合に向いています。
温経湯
冷えやのぼせがある、胃腸に不調を起こしやすい、手がほてり、唇が乾燥するといった体質で、やや虚弱な方に処方されます。対象となるのは月経不順、月経困難症、不妊症、多嚢胞卵巣症候群、無排卵周期症などで、排卵障害に対して効果が期待できるとされています。
抑肝散
やや虚弱な方に向いています。イライラが強い、興奮しやすい、怒りっぽい、せっかちといった症状がある月経前症候群 (PMS)、不眠などに効果が期待できます。血栓症や肝機能異常、前兆を伴う片頭痛の合併などにより、ピルを使用できない場合のPMS対策としても有用です。
抑肝散は子供のかんしゃくや夜なきにも用いられ、小さなお子さんを抱えて大変なお母さんにとって有用な漢方薬です。この場合、母子の同時内服が考慮されます。なお、動悸やめまいがある、胃腸が弱い場合には、健胃作用のある半夏や陳皮が含まれた抑肝散加陳皮半夏の処方を考慮します。
桂枝茯苓丸
皮膚の色が黒く、唇や舌が暗紫色、下腹部に筋緊張や圧痛がある、筋肉が発達している、中等度以上の体格の方に処方されます。対象となるのは、月経困難症、月経不順、更年期障害、不眠などです。桂枝茯苓丸で効果不十分な場合は、桂枝茯苓丸加薏苡仁を考慮します。
桃核承気湯
中等度以上の体格、筋肉質で頑強、左下腹部に強い圧痛がある方、便秘を伴う方に向いています。対象となるのは月経困難症、月経前症候群、月経時や産後の不安、月経不順、腰痛などです。
女神散
中等度程度の方に向いています。対象となるのは、更年期障害、神経症、不眠症、月経不順などで、特に産褥期の神経症にも有効とされています。めまい、動悸、発汗、逆上感、悪寒、冷え、不眠、金縛り、不安感などの症状にも効果が期待できます。加味逍遥散を用いるものぼせや発汗症状が持続する場合に考慮される漢方薬の一つです。
柴胡加竜骨牡蛎湯
体格が頑強または肥満傾向の方に向いています。腹部大動脈の拍動が触知でき、脇腹に抵抗や痛みのある方に用いられます。対象となるのは頭痛、肩こり、軽度抑うつ、動悸、不安感、不眠などです。
補中益気湯
虚弱な方に向いています。対象となるのは、疲労感や倦怠感などで、身体が重い、元気が出ない、昼食後眠くなる、風邪を引きやすいといった不調にも効果が期待できます。
半夏厚朴湯
やや虚弱から中等の方に向いています。対象となるのは、不安神経症、神経性胃炎、不眠症、抑うつ、のどに異物があるような咽喉頭異常感などです。
芎帰膠艾湯
やや虚弱から中等の方に向いています。月経量が多い (過多月経)方や長引く (過長月経)方に有効です。また、低用量ピルやジェノゲストなどの女性ホルモン剤の使用により不正性器出血を起こす場合にも、出血量の減少が期待できます。
婦人科系疾患以外の
漢方薬について
漢方薬は、婦人科系疾患以外の様々な病態にも、幅広く対応可能です。
各病態別に使用される代表的な漢方薬は下記の通りです。
当院では必要に応じて、患者様の体格、脈、舌、腹部所見などの東洋医学的診察所見 (証)に応じて、治療薬を選択しております。
消化器系の症状
つわり
小半夏加茯苓湯、人参湯
食欲不振
補中益気湯、十全大補湯、人参養栄湯、清暑益気湯
胃痛、胃もたれ、胸やけ
安中散、六君子湯、四君子湯、茯苓飲、半夏瀉心湯
悪心・嘔吐症
二陳湯、五苓散、六君子湯
二日酔い
五苓散、半夏瀉心湯、黄連解毒湯、黄連湯
下痢症
半夏瀉心湯、真武湯、啓脾湯、柴苓湯、猪苓湯、桂枝人参湯
便秘症
大黄牡丹皮湯、桃核承気湯、大承気湯、
潤腸湯、麻子仁丸、大黄甘草湯
腹部膨満感
大建中湯、当帰湯
IBS (過敏性腸症候群; 下痢や便秘を繰り返す)
桂枝加芍薬湯、桂枝加芍薬大黄湯
痔
乙字湯、大柴胡湯、桂枝茯苓丸、当帰建中湯、紫雲膏
痔出血
芎帰膠艾湯
循環器系の症状
動悸
炙甘草湯、苓桂朮甘湯、桂枝人参湯、柴胡加竜骨牡蛎湯
むくみ
五苓散、柴苓湯、防己黄耆湯、木防己湯、牛車腎気丸、当帰芍薬散
高血圧症
大柴胡湯、柴胡加竜骨牡蛎湯、黄連解毒湯、釣藤散、七物降下湯
心臓喘息
木防己湯
心臓弁膜症
当帰芍薬散、真武湯
呼吸器系の症状
かぜ (急性期)
葛根湯、柴葛解肌湯 (葛根湯+小柴胡湯加桔梗石膏)、麻黄附子細辛湯、麻黄湯、香蘇散
かぜ (亜急性期)
桂枝湯、小柴胡湯、柴胡桂枝湯、参蘇飲
かぜ (回復期で、不調や疲労が持続する場合)
補中益気湯、十全大補湯、加味帰脾湯
気管支喘息
柴朴湯、小青竜湯、麻杏甘石湯、五虎湯、
苓甘姜味辛夏仁湯、神秘湯
咳 (たんが出にくい)
麦門冬湯、滋陰降火湯、神秘湯、柴朴湯
咳 (たんを伴う)
清肺湯、滋陰至宝湯、竹筎温胆湯
咳に伴う胸痛
柴陥湯
泌尿器・生殖器系の症状
頻尿・夜間尿
六味丸、八味地黄丸、牛車腎気丸、苓姜朮甘湯、清心蓮子飲
排尿時痛・膀胱炎
猪苓湯、猪苓湯合四物湯、五淋散
陰部のかゆみ、帯下
竜胆瀉肝湯
子宮下垂
補中益気湯
歯科口腔外科領域の症状
抜歯後の疼痛、歯痛
立効散
歯槽膿漏、歯髄炎
排膿散及湯
口内炎
半夏瀉心湯、黄連湯、茵蔯蒿湯
舌痛症
白虎加人参湯、黄連湯、温経湯、麦門冬湯、滋陰降火湯、滋陰至宝湯
口渇感
白虎加人参湯、五苓散
耳鼻咽喉科領域の症状
扁桃炎
桔梗湯、小柴胡湯加桔梗石膏、荊芥連翹湯、柴胡清肝湯
咽喉頭異常感症 (飲み込みにくい、のどが詰まった感じ)
半夏厚朴湯、柴朴湯、茯苓飲合半夏厚朴湯
副鼻腔炎・蓄膿症・後鼻漏
葛根湯加川芎辛夷、荊芥連翹湯、辛夷清肺湯
鼻炎・鼻汁 (花粉症含む)
小青竜湯、大青竜湯 (麻黄湯+越婢加朮湯または、桂枝湯+麻杏甘石湯)、苓甘姜味辛夏仁湯
嗅覚異常
当帰芍薬散
鼻出血
黄連解毒湯、三黄瀉心湯
めまい
半夏白朮天麻湯、苓桂朮甘湯、連珠飲 (苓桂朮甘湯+四物湯)、当帰芍薬散、真武湯
耳鳴り
釣藤散、七物降下湯
整形外科領域の症状
肩関節痛 (肩こり、五十肩など)
葛根湯、二朮湯
筋肉痛
薏苡仁湯、疎経活血湯、芍薬甘草湯、麻杏薏甘湯
神経痛・関節痛
疎経活血湯、桂枝加朮附湯、桂枝加苓朮附湯、五積散、麻杏薏甘湯
こむら返り・足がつる
芍薬甘草湯、疎経活血湯、牛車腎気丸
関節リウマチ
麻黄湯、越婢加朮湯、大防風湯
痛風
大防風湯
打撲
治打撲一方、通導散
腰痛
疎経活血湯、桃核承気湯、八味地黄丸、牛車腎気丸、五積散、苓姜朮甘湯
しびれ
牛車腎気丸
胸背部痛
当帰湯
皮膚科領域の症状
脱毛症
桂枝加竜骨牡蛎湯、柴胡加竜骨牡蛎湯
乾燥肌、あかぎれ
四物湯、十全大補湯、温清飲
にきび
荊芥連翹湯、清上防風湯、桂枝茯苓丸加薏苡仁
湿疹
十味敗毒湯、消風散、柴胡清肝湯、黄連解毒湯、
越婢加朮湯、治頭瘡一方
かゆみ
当帰飲子、黄連解毒湯、消風散、真武湯、六味丸、牛車腎気丸
しもやけ
当帰四逆加呉茱萸生姜湯、四物湯、温経湯
しみ
四物湯、桂枝茯苓丸加薏苡仁
ケロイド・肥厚性瘢痕
柴苓湯
やけど
紫雲膏
帯状疱疹
越婢加朮湯、桂枝加朮附湯
精神神経系の症状
頭痛
五苓散、呉茱萸湯、人参湯、苓桂朮甘湯、桂枝人参湯、川芎茶調散、釣藤散
不眠症
酸棗仁湯、柴胡加竜骨牡蛎湯、柴胡桂枝乾姜湯、
桂枝加竜骨牡蛎湯、帰脾湯、加味帰脾湯
不安神経症
半夏厚朴湯、柴朴湯、茯苓飲合半夏厚朴湯
易怒性 (イライラする等)
抑肝散、抑肝散加陳皮半夏
認知症
抑肝散、抑肝散加陳皮半夏、人参養栄湯
パニック発作
苓桂朮甘湯、肘後方奔豚湯(苓桂朮甘湯+呉茱萸湯)
小児科領域の症状
かんしゃく・夜泣き
抑肝散、甘麦大棗湯
夜尿症
小建中湯、桂枝加竜骨牡蛎湯
小児虚弱体質
小建中湯
アトピー性皮膚炎
黄耆建中湯
その他の症状
冷え症
当帰四逆加呉茱萸生姜湯、桂枝加朮附湯、
苓姜朮甘湯、温経湯
多汗症
四逆散、三物黄芩湯、黄耆建中湯、桂枝加竜骨牡蛎湯
疲労倦怠感
補中益気湯、十全大補湯、人参養栄湯、加味帰脾湯
夏バテ
清暑益気湯
肥満症
防己黄耆湯、防風通聖散
*一部の漢方薬はCOVID19や季節性インフルエンザの感染拡大にて需要が増大し、出荷制限・出荷停止となり、使用できないことがあります。あらかじめご了承くださいますようお願い申し上げます。
*当院では、保険収載された医療用漢方製剤を用いております。複数の医療用漢方製剤を用いても症状が改善しない場合は、煎じ薬の対象となります。当院ではそのような対応は行っておりません。この場合には他の漢方専門医療機関をご紹介させていただきます。あらかじめご了承ください。
*問診・診察所見から、西洋医学的治療、他診療科での専門的治療が優先される場合には、そちらの治療を優先させていただきます。漢方薬のみで全ての不調や症状が改善できるとは限りません。あらかじめご了承ください。
東洋 (漢方)医学における心身一如の考え方について
心身一如(しんしんいちにょ)とは、こころ(精神)とからだ(身体)は切り離すことのできないひとつのものという意味です。 こころとからだはつながっていて、こころの不調がからだの症状に影響したり、逆にからだの症状がこころの不調を招いたりします。
このため、こころとからだを切り離さずに、心身全体の調和をはかることが東洋医学の治療の基本となります。
この心身一如と似た考え方に、心身症(しんしんしょう)という病態があります。心身症とは、身体疾患の中で、心理社会的ストレスが病気の発症や経過に関与する疾患群です。
主な心身症に、以下のような病態があります。
産婦人科領域の病態 | 更年期症候群、PMS(月経前症候群)、PMDD(月経前不快気分障害)月経痛、性交痛、月経異常、マタニティブルー、外陰部痛、外陰部掻痒症など |
消化器領域の病態 | 胃・十二指腸潰瘍、急性および慢性胃炎、嘔気・嘔吐症、過敏性腸症候群、便秘症、下痢症など |
循環器領域の病態 | 動悸、不整脈、起立性低血圧、高血圧など |
呼吸器領域の病態 | 気管支喘息、過換気症候群など |
泌尿生殖器領域の病態 | 過活動膀胱、頻尿、夜尿症、尿閉など |
歯科・口腔外科領域の病態 | 顎関節症、舌痛症、口渇症、歯痛、口内炎、三叉神経痛、味覚障害など |
耳鼻咽喉科領域の病態 | めまい、耳鳴り、咽喉頭異常感症、突発性難聴、アレルギー性鼻炎、嗄声、失声、嗅覚障害など |
整形外科領域の病態 | 肩こり、腰痛症、関節痛、神経痛、関節リウマチ、椎間板ヘルニア、こむら返りなど |
皮膚科領域の病態 | アトピー性皮膚炎、蕁麻疹、湿疹、皮膚掻痒症、多汗症、脱毛症など |
精神神経系・心療内科領域の病態 | 頭痛、不眠症、不安神経症、身体表現性障害、摂食障害、 |
心身症は、上記の症状が重なって発症することが少なくなく、いわゆる臓器別に診る西洋医学的な検査・治療では対応困難なことがあります。
当院では、西洋医学的な治療を行いながら、必要に応じて東洋(漢方)医学による心身一如の考え方も取り入れた上で、漢方治療ならびに心身医学療法を行っております。
なお、当院で漢方治療をお受けいただく方には、心身医学療法の管理加算を算定させていただきます。ご了承ください。